腹八分が良い理由
日本では昔から、「腹八分に医者いらず」、と言われてきました。では、腹八分目の食事が、なぜ健康に良いのでしょうか?その科学的な検証が数十年前から世界各国で盛んに行われています。具体的にはラットなどを対象に、食事の量を一定に制限したグループと、好きなだけ食べさせたグループとの平均寿命を比較する研究です。
例えば、日本で行われた東海大学医学部の橋本一男教授、田爪正気講師らによる研究では、食べ放題にしたマウスの平均寿命が74週であったのに対し、食事の量を80%に制限したマウスは122週と、1.6倍以上に延びたことが、1990年に報告されています。また、この研究では、カロリー制限によって免疫力が高まることも指摘されています。
また、その後の研究からも、腹八分、つまり、適切なカロリー摂取が、血圧、血糖値、中性脂肪、コレステロールを正常値に保つこと、結果、高血圧や脳卒中、心臓疾患、他多くの成人病の予防が適うことが解明されています。
現在までに、寿命や老化をコントロールするさまざまな遺伝子やその関連物質が発見されていますが、それらには摂取カロリーと関係するものが少なくありません。例えば、ある種の遺伝子からつくられるサーテュインという酵素の一種は、細胞の老化を防ぐ働きをします。一定のカロリー制限をすると、サーテュインが活性化され、細胞の死滅を防ぐ機能が強化されることがわかっています。また、カロリー制限によってサーテュインの老化防止機能が活性化されることに注目し、現在、薬(カロリー制限模倣物質)によってサーテュインを活性化させる研究も進められています。
また、私たちがもっている遺伝子には、若いころには病気の発生を抑える機能をしていたものが、ある年齢になると機能停止になってしまうものがいくつもあります。そうすると、異常な細胞の増殖を抑えることが出来なくなり、がんが発生したり、アルツハイマー病のリスクが高くなったりもします。こうした遺伝子も、一定のカロリー制限によって、機能が持続する期間が長くなるものと推定されています。つまり、それだけ加齢に伴う病気の発症を遅らせることが出来る訳です。
これらのことから、腹八分はメンタルと体を良い状態に保つためにも、元気に長生きするためにも、非常に理に適っていると言えます。
もちろん、たまに食べ過ぎてお腹一杯になっても構いません。気に病む必要もありません。ただ、お腹一杯が習慣化しないようにだけ留意しましょう。「メンタルも体も健康になる食生活って?」に従って、「栄養価の高いものをゆっくり!」食べている限りは腹十分になることはないはずです。早食いの方、ついつい食べ過ぎてしまう方は無理せず少しずつ生活を変えていきましょう。